独立社外取締役
インタビュー

更新日:2024/10/1

社外取締役 臼見 好生の写真

統合効果を最大化させ
持続的な事業成長と企業価値向上によって
株主・投資家の期待に応えていく

臼見 好生社外取締役(独立役員)常勤監査等委員

  • Q1

    昨年の経営体制の変更やヤフー(株)、LINE(株)を含むグループ内再編※1によって、経営にどんな変化が現れていますか?

    2023年4月、Zホールディングス(株)とLINE(株)の経営統合以降続けてきたCo-CEO制を廃し、CEO1名体制へと移行しました。その結果、昨年実施したLINE証券(株)の再編やLINE Bankのプロジェクト中止など、グループ内の重複した事業の統廃合についても非常に迅速な意思決定ができたと評価しています。

    さらに、10月のグループ内再編を機に組織体制や役員の構成も変更しました。それまではLINE(株)とヤフー(株)それぞれに同じような役割の執行役員を1名ずつ置いていましたが、再編後はこれを廃し、権限・責任の所在を明確化したことで、執行のスピードも大きく高まりました。また、従来は両社に存在していたメディア、広告、コマースといった事業組織がカンパニーとして統合されたのも大きなメリットです。同じ組織の仲間となったことで、社員のコミュニケーションもよりスムーズになり、新しいプロダクト、サービス開発に向けた議論も活発化しています。

    こうした意思決定の迅速化や事業組織の活性化は、すでに業績にも好影響を及ぼしています。2023年度の調整後EBITDAは、取り下げた前・中期経営計画の目標であった3,900億円を大きく超える4,150億円に達しました。不正アクセスの問題がなければ、もっと株価に大きく反映されたはずです。その点は非常に残念ですが、Zホールディングス(株)とLINE(株)の経営統合が事業成長に結びつくことを、株主・投資家の皆様に証明できたのではないかと思います。

    もちろん、事業面での本格的な統合効果が現れるのはこれからです。「LINE」と「Yahoo! JAPAN」のアカウント連携を実施し、「LYPプレミアム」もスタートしましたが、これらの施策によってユーザーの行動スタイルが変化し、コマースの利用拡大などの成果につながるまでにはある程度時間がかかると思います。そういった各施策の進捗状況についてもしっかりとモニタリングしていきます。

  • Q2

    今回、取締役会における独立社外取締役の比率が50%を超えました。その経緯について教えてください。

    支配株主を有する上場企業において、独立社外取締役は少数株主の利益を保護するという非常に重要な役割・責務を負っています。それだけに、独立社外取締役の増員については、指名報酬委員会で何度も議論しており、実際にZホールディングス(株)とLINE(株)の経営統合以来、段階的に独立社外取締役の比率を高めてきました。旧Zホールディングス(株)は、取締役9名のうち1/3の3名が独立社外取締役でしたが、2021年のZホールディングス(株)とLINE(株)の経営統合を機に1名増員して10名中4名を独立社外取締役とする体制にしました。2023年10月のグループ内再編にあたっては、取締役を10名から7名に減員し、7名中3名が独立社外取締役という体制でスタートしました。そして2024年6月には、社内取締役2名が退任し、独立社外取締役を1名増員したことで、6名中4名と独立社外取締役が過半数を占める構成になりました。その結果、支配株主を有するプライム上場企業として、より適切なガバナンス体制に近づくことができたと考えています。

    なお今回の体制変更では、慎ジュンホCPO (Chief Product Officer)と桶谷拓CSO (Chief Strategy Officer)が、取締役を退任して執行に専念する形になりました。これにより経営と執行の分離を進め、プロダクト開発やマーケティング戦略の実行を加速させ、当社グループの事業成長を促進できるものと考えています。

  • Q3

    新たに髙橋祐子氏が独立社外取締役に選任されました。選任理由をお聞かせください。

    LINEヤフー株式会社 社外取締役(独立役員)常勤監査等委員 臼見 好生の写真

    旧Zホールディングス(株)と現在のLINEヤフー(株)とでは、独立社外取締役に求められる役割に多少違いがあります。Zホールディングス(株)は純粋持株会社であり、傘下のLINE(株)、ヤフー(株)といった事業会社には、財務担当役員経験者や公認会計士が監査役に就任していました。そのため、Zホールディングス(株)においては、グループ全体の経営を監督できる人を中心に社外取締役を選任してきました。

    それに対してLINEヤフー(株)は自ら事業活動を行う事業持株会社です。特に当社の場合、かねてよりM&Aに積極的であり、今後も組織再編や事業セグメントの見直しを行う可能性があります。そうした事業戦略の推進を円滑にサポートしていくためには、自社の社外取締役・監査等委員の中にも会計の専門家を加えるべきと判断しました。そこで公認会計士および企業における経理部門責任者として長年の経験と実績を有し、複数の企業で社外取締役、社外監査役を務めてきた髙橋祐子氏を招へいしたのです。

    それまで当社の独立社外取締役は、蓮見麻衣子氏、國廣正氏、私、臼見好生の3名で構成されていました。アナリスト出身の蓮見さんには、主に投資家の目線から当社の事業成長や企業価値向上について議論していただいています。弁護士でもある國廣さんは、コーポレートガバナンスに関する知見も深く、ガバナンス委員会の委員長も務めていただいています。私は、(株)野村総合研究所でコーポレート管掌の代表取締役として経営に携わってきた経験から、常勤の独立社外取締役として当社グループの経営を広く見させていただいております。今回、そこに企業の財務・会計に関する専門的な知見・経験を有する髙橋さんが加わったことで、独立社外取締役のスキルマトリックスの観点からもバランスの優れた構成になりました。さらに、女性取締役は7名中1名(14%)から6名中2名(33%)となり、ダイバーシティ面でも一歩前進できたと考えています。これからもそれぞれの強みを生かしながら経営の監督・サポートに注力していきます。

  • Q4

    2023年10月に発生した不正アクセスによる情報漏洩の問題について、社外取締役としてどのように考えられていますか?

    今回の問題は、韓国NAVER Cloud社の委託先かつ当社の委託先でもある企業の従業員が所有するPCがマルウェア感染したことが契機でした。旧LINE(株)とNAVER Cloud社が共通の認証基盤でシステムネットワーク接続を管理していたことから、NAVER Cloud社のシステムを経由して当社システムへの不正アクセスが行われ、情報漏えいに至ったものです。

    当社の取締役ならびに独立社外役員である監査等委員は、これを最重要の経営課題と捉えて、問題発生直後からさまざまな場で議論を重ねてきました。私は常勤の社外役員として原則月1回の取締役会に加えて随時開催される経営会議に出席し、情報漏えいによる影響の確認や原因究明、対策の立案・実行などのプロセスを細かく見てきました。今回は影響範囲が非常に広かったこともあり、執行側としてもそれを慎重に見定めながら対策のスケジュールを立ててきました。そのため問題発覚後、対策の策定・実行までに時間を要し、2024年3月、4月と2度にわたって行政指導を受ける結果になったのは大きな反省点です。

    再発防止対策として、当初2026年12月に予定していたNAVER Cloud社とのシステム分離を、同年3月に前倒しして完了させることを発表しました。それに加え、委託先管理の厳格化や社内システムの見直しなど、各種の安全管理措置の強化に取り組んでいます。さらに外部の情報セキュリティ専門家や法律事務所、外部有識者会議などの第三者機関による評価も実施しています。

    情報セキュリティは当社にとって企業存続に関わる重大な問題です。社外取締役としてこれからもしっかりとモニタリングし、継続的に強化していかなければならないと考えています。

  • Q5

    不正アクセスによる情報漏えいの件に関する総務省からの行政指導において、親会社※2等を含むグループ全体でのセキュリティ・ガバナンスの本質的な見直しおよび強化について指摘があった点については、どのように考えられていますか?

    旧LINE(株)はNAVER社の100%子会社でしたが、2016年の東京証券取引所、ニューヨーク証券取引所への上場の際にNAVER社の持株比率が80%台となりました。さらに2021年のZホールディングス(株)との経営統合によって、当社株式 の64%の株式を保有するAホールディングス(株)の株式の半数を保有する水準まで低下していました。100%子会社であれば情報システム基盤などの経営資源を親会社と共有するのは一般的なことですが、その後の持株比率の変化に対応して運営方法を変えていっても良かったのではないかと思います。今回、NAVER社側との委託業務を縮小・解消することを決定したことは大きな決断だったと評価しています。

    ところで、当社の場合、これまで支配株主の持株比率が約64%あり、東証プライム市場の上場維持基準のひとつである流通株式比率35%以上を満たしていなかったのも大きな課題でした。そこで、6月より支配株主であるAホールディングス(株)と対話を続け、同社からの株式取得も含めて、8月5日から1株につき388円で1,500億円規模の公開買付けを実施しました。9月30日付で、発行済み株式総数の6.4%にあたる株式の消却を実施し、同日時点では流通株式比率35%を達成する見込みです。なお、この公開買付けおよび買付価格については、少数株主の皆様の不利益とならないよう、ガバナンス委員会で取引の公正性について審議し、 当社およびAホールディングス(株)から独立した第三者算定機関に当社普通株式の株式価値の算定を依頼して合理性についても検証し、決定したものです。これからも少数株主の皆様に不利益とならないよう、社外取締役としてモニタリングしていきます。

  • Q6

    指名報酬委員会の委員長として臼見さんが注力していることは何でしょうか。

    LINEヤフー株式会社 社外取締役(独立役員)常勤監査等委員 臼見 好生の写真

    2021年のZホールディングス(株)とLINE(株)の経営統合、そして2023年のグループ内再編と、当社は体制を大きく変化させてきました。この3年は変化に対峙する取締役の選任が指名報酬委員会における最大のテーマでした。しかし独立社外取締役が過半数となり、支配株主を有するプライム上場企業として目指してきたガバナンス体制が実現しつつあります。

    そこで今期から、サステナブルな観点に立って、次世代の経営や業務執行を担う人材のプールを厚くすることに注力していきたいと考え、指名報酬委員会でも検討・議論を開始しました。次世代人材の層が厚みを増せば、それが中長期的な当社の強みになっていくはずです。次世代人材と社外取締役の対話の機会も設け、次世代の経営や業務執行を担う層にどのような人材がいるのか、確認していきたいと考えています。

    さらに昨年から力を注いでいるのが役員報酬制度の最適な運用です。役員への金銭報酬のうち基本報酬を除いた業績連動報酬(現金賞与)は、会社業績および企業価値向上への貢献に対するインセンティブであり、その決定基準の80%は売上収益、調整後EBITDA、調整後EPSの3つで構成されています。指名報酬委員会では、事業環境や当社の経営方針に合わせ、これらのKPIやウェイトを変えてきました。2023年度は、グループ内再編を通じた事業の効率化を行う経営方針を踏まえて、売上収益(20%)よりも調整後EBITDA(40%)のウェイトを高めるとともに、調整後EPSを新たなKPIとして設定しました。それに対して2024年度は、稼ぐ力だけでなく事業成長も重要との視点から、売上収益を前年の20%から30%に、調整後EBITDAを40%から30%へと変更しました(調整後EPSはどちらも20%)。今後も最適かつ透明性の高い制度運用によって役員のリーダーシップ発揮を促し、持続的な成長と企業価値向上につなげていきます。

  • Q7

    2023年度に続き2024年度も株式報酬を不支給とした理由は何ですか。

    当社における役員報酬は、基本報酬、業績連動報酬(現金賞与)、株式報酬の3つで構成されています。基本的にはそれぞれをバランスよく支給することが望ましいと考えていますが、2023年度は構造改革を断行していた時期でもあり、執行側から「業績目標の達成に資することを目的に、株式報酬は不支給としたい」との申し出がありました。これを受けて監査等委員も含めて不支給とすることを決めました。結果として、調整後EBITDAが約4,150億円に達するなどの経営状況を踏まえて、2024年度は株式報酬を支給すべきではないかという意見もありました。しかし、前述の不正アクセスによる情報漏えいの発生、および行政指導・勧告等を受けた責任を重く受け止め、2024年度も不支給とすることを決定しました。

    なお、役員報酬を見ると、慎ジュンホCPOへの株式報酬が突出する形になっていますが、これはZホールディングス(株)と統合する以前の旧LINE(株)から付与したストックオプションによるものです。旧LINE(株)では、事業が大きく成長したら大きなリターンがある米国型の報酬体系を採用していました。前述の経緯も踏まえて、慎ジュンホCPO本人から以前に付与された株式報酬の一部を返上したいとの申し入れがあり、指名報酬委員会としてもその意向を受諾しています。

  • Q8

    2023年度の取締役会ではどのような議論が行われてきましたか?また、2024年度の重要課題についても教えてください。

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    2023年度における最大の経営課題は、Zホールディングス(株)とLINE(株)の経営統合の成果を早急に発揮させることであり、取締役会でもそのための戦略議論に最も力を注いできました。実際、着実に議論が深まっていったのですが、不正アクセス問題の発生を受け、11月以降は対応に追われる形になりました。

    2024年度の重点課題としては、「セキュリティ・ガバナンス」、「プロダクトの強化」、「規律あるコスト投下」の3つを公表しています。

    1つめの「セキュリティ・ガバナンス」は、企業存続の「必要条件」であり、ここをしっかり強化して社会の信頼を得られなければ、当社は絶対に次のステージに進むことはできません。行政指導でも指摘された、親会社等を含むグループ全体でのセキュリティ・ガバナンス指摘の本質的な見直しおよび強化については、2024年7月1日付で再発防止策や委託先管理の見直しなどを盛り込んだ報告書を総務省に提出しました。取締役会では、今後、これらの安全措置や体制強化の進捗状況を継続的にモニタリングしていく予定です。

    もちろん、それだけでは事業成長は望めません。「プロダクトの強化」を進め、より多くのユーザーに支持されるサービスを提供していくことが重要です。グループ内再編以降、当社ではアカウント連携や「LYPプレミアム」などの施策を講じてきました。取締役会では、これらの施策が計画通りに進捗し、事業成長や収益強化にうまく結びついていくかどうかモニタリングしていきます。さらに、次の成長戦略についても十分な時間を割いて議論していきたいと考えています。

    そして、こうした成長投資の効率を高め、資本コストを上回るより大きなリターンを獲得していこうというのが、3つめのテーマである「規律あるコスト投下」です。8月から実施した自己株式の取得で約1,500億円を投じましたが、それでもまだまだ、当社のROEやPBR、調整後EPSなどの指標は、株主・投資家にとって満足できる水準ではありません。資本効率に対する意識を当社の経営に関わる全員がもっと強く持って行動すべきであり、その点については取締役会だけでなく経営会議においても指摘しています。

    これら3つのテーマに加え、私は「従業員エンゲージメント」を重要な課題に採り上げたいと考えています。当社にとって人材は最も重要な非財務資本であり、先日の不正アクセス問題などがエンゲージメントにどのような影響を及ぼしているかも気になります。私だけでなく監査等委員全員が、「従業員エンゲージメント」を重要な課題と認識しており、今年度から重点的に議論していく予定です。

    当社では、経営会議がほぼ毎日といっていいほど頻繁に行われています。私は常勤としてできる限り会議に参加し、当社の経営状況や経営課題などを把握するように心がけています。そして重要なテーマについては取締役会でも採り上げるとともに、ガバナンス委員会、指名報酬委員会などで詳しく議論しています。常勤の独立社外取締役として、このように複数の会議体を橋渡しする役割はこれからもきちんと果たしたいと考えています。

  • Q9

    最後に、株主・投資家の皆様へのメッセージをお願いします。

    現在(2024年8月中旬時点)の当社の株価が、株主・投資家の皆様の期待する水準に遠く及ばないことは、取締役全員がはっきりと認識しています。その点は大変申し訳なく思っています。それでも当社は、「LINE」や「Yahoo! JAPAN」、連結子会社が展開する「PayPay」など、日本のデファクトともいえる複数の強力なプロダクトを有する国内最大級のプラットフォーマーであり、大きな将来性を秘めた会社であることに間違いありません。これらのプロダクトを生み育ててきた優秀なエンジニアの存在や、膨大な顧客基盤・情報基盤を有しているのが大きな強みです。この先、生成AIが広く普及し、社会を大きく変えていくと予想されます。こうした先進テクノロジーを社会実装していく上でも、顧客基盤と情報基盤、そして優れたデジタル人材を保有する当社は、絶好のポジションに位置しています。

    それだけに、今後、「プロダクト強化」をはじめとする成長戦略を確実に実行し、当社の強みをしっかりと業績に反映させていけば、株価の面でも株主・投資家の皆様の期待に必ず応えていけるものと確信しています。また、新たな自己株式の取得についても、キャピタルアロケーションに沿った形で、実施を議論・検討していきます。私たち独立社外取締役は、そうした当社の成長戦略、経営状況について、これからも株主・投資家目線からしっかりとモニタリングするとともに、ステークホルダーの皆様にご報告していきたいと考えています。

  1. ※1:2023年10月1日を効力発生日として、Zホールディングス(株)、中核完全子会社であるLINE(株)およびヤフー(株)を中心としたグループ内再編を実施
  2. ※2:ここでいう「親会社等」とは、LINEヤフー社の親会社や親会社の議決権の半数以上を保有する企業グループをいう(会社法上の「親会社」、「親会社等」とは必ずしも同義ではない。)。 具体的には、Aホールディングス社、NAVERグループ、ソフトバンクグループが該当する。
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